2010年4月18日日曜日



八郷では、たくさんの農家が、家を美しく保つことに、精力とお金を使っています。
大きな母屋と納屋、そして隠居(棟)や蔵、門などが、中庭を囲うように建っている家が、たくさんあるのです。美しく刈り込まれた生垣も見事ですが、漆喰壁に瓦を乗せた、築地塀も風情があります。
どんな大金持ちが住んでいるのかと思われるたたずまい、使用人が10人くらいいてもおかしくないほどの大きさ、りっぱさなのに、おじいちゃんとおばあちゃんが二人だけで暮らしていて、納屋の軒下で、せっせとネギの株分けをしたりしています。

中には、たいせつな田んぼを担保に、お金を借りてまで、四足門を造ったり、ブロック塀を築地塀になおしたりする人もいるそうです。
四足門というのは、太い4本柱に、大きな屋根を乗せた門のことで、威風堂々としています。このあたりの門は、伝統的に、屋根と柱はあっても扉がありませんから、建てても防犯上の意味はありません。精神的な結界以外、なんの機能もない門ですが、四足門は、長屋門より数段格上と考えられています。

私と夫が好きなのは、蔵と呼ばれる、比較的小さな建物です。家と家が離れていて、あまり火事の心配がなかったのか、蔵は木造で、壁は漆喰や板でつくられています。形は切妻で、一方にだけ、下屋(げや)と呼ばれる片流れの屋根がついています。下屋の屋根は、長く伸ばして下で作業できるよう、少し勾配が本屋根よりゆるくなっています。
そのプロポーションの美しいこと。中でも、私たちがもっとも気に入っているのは、恵比寿大黒の鏝絵がある蔵です。




この家では、数年前に屋根瓦を葺き替え、壁を塗りなおしましたが、鏝絵のところは、昔のままに残してあります。




蔵の棟木は、切妻の両側に、壁を突き抜けて、出ています。あまり雨に濡れない位置なので、そのまま木口を見せているものが多いのですが、木口に漆喰を塗り、屋号などの模様をつけたものもあります。




これは、般若の鏝絵をほどこした棟木です。
般若は、妙にリアルな顔をしていて、見るたびに、「どうしてこんな飾りをつけているの。どうして?」と、つぶやかずにはいられません。
この数年、大きく育った生垣で般若が見えなかったのですが、久し振りにこの家の前を通ったら、生垣が切られて、また般若が、恐ろしい顔を見せていました。

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