2011年4月16日土曜日

キューピー





椅子に座って、ロイド眼鏡を掛けた、セルロイドのキューピーです。
物心ついたときには、毎年お雛さまといっしょに飾られていました。ネズミの糞臭い、煮染めたような色の箱から、なぜこのキューピーが出てくるのか。祖母の家ではあまりにもあたり前の年中行事だったので、誰にもたずねてみないまま、今日まで来てしまいました。

このキューピー、私より年上であることは、間違いありません。




小学生の頃、これとそっくりのキューピーを持っていました。
このキューピーは高さが13センチですが、以前持っていたのは、16センチくらいではなかったかと思います。
足がくっついていて、首周りは太い、お腹も出っ張っているという、おしゃれさせるには難しい体型でしたが、服を縫ってあげたり、編んであげたりと、よく一緒に遊んだ、衣装持ちのキューピーでした。

中学生になると、キューピーのことなど忘れ果てました。
しかし、十代も終わりの頃でしょうか、懐かしいキューピーのことを思い出し、小さいころ一緒に暮らしていた祖母の家を訪ねるたびにさがしてみました。しまいそうな場所は隈なくさがしましたが、見つかりませんでした。

祖母に聞いても、「どうしたかなあ」と、本当に知らないのか、それとも、誰かにあげてしまったのでとぼけているのか、はっきりしたことはわかりませんでした。

なんとなく、残念な気持ちを引きずっていましたが、いつだったか、このそっくりのキューピーに出逢うことができました。私が小さい頃は、おもちゃ屋さんには必ず置いてあった、厚手のセルロイドの、しっかりしたキューピーです。




以前の職場から、もよりの電車の駅までの途中に、アンティークの西洋おもちゃのお店がありました。
いつも閉まっていて、たまにしか開いていないのですが、開いていても、店主は無愛想で、気軽に入れる雰囲気ではありませんでした。

あるとき、久しぶりに開いていたお店に入ってみると、いろいろなおもちゃに混じって、磁器の、同じようなキューピーが三体ほどありました。値段を聞いてみると、案の定、すっと買えるような値段ではありませんでした。




「背中にシリアルナンバーがついているでしょう。アメリカでも今じゃ滅多に出てこないんだ」
ローズオニール社のキューピーで、1913年製です。
ふ~ん。

「あら、これは身体が割れたのを継いである」
一体を手に持っていた私がそう言うと、遠くにいた店主が血相を変えて飛んできて、ひったくりました。
「ほら、この継ぎ目」
「だから、安く出ていたんだ。そうだったのか」
とつぶやいた店主、いきなりこのキューピーの値段を半分以下に下げました。
思いがけず、安く仕入れたと思って、ほくほくしていたようでした。

どうしようか。
まっ、かわいいから、いいかと、まだ高めでしたが手の届く値段になったキューピーは、我が家に来ました。そして、服を着せてもらって、お腹の傷のことも、100歳近い歳のことも忘れて、今では楽しく暮らしています。




骨董市などで、ときどきセルロイドのキューピーと目があってしまうことがあります。
目があってしまったら仕方がない、そして値段も安かったら、我が家に連れてきてしまいます。





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