2013年11月7日木曜日

ミセス・ポリファックス


背骨を強打して入院中、kuskusさんが『おばちゃまは飛び入りスパイ』(ドロシー・ギルマン著、柳沢由美子訳、集英社、 1988年、原作発行は1966年)を貸してくれました。

物語は、日常生活の単調さでちょっと鬱になりかかった年配のミセス・ポリファックスが、小さい頃の夢だったスパイになろうと、ありきたりの紹介状を手にCIAの事務所に乗り込み、「スパイになりたい」と人事課の人を困らせるところからはじまります。
ところが偶然、CIAの中でもハードな部署のカーステアーズが、気楽な観光客に見える秘密情報員をさがしていて、手違いからミセス・ポリファックスに会い、気に入ってしまいます。
任務は、メキシコシティーの本屋さんからマイクロフィルムを受け取って帰ってくるだけの簡単なものでしたが、ことは簡単には運ばず、ミセス・ポリファックスは捕まり、生きては出られないというアルバニアの山岳地帯の牢に送られてしまいます。
その牢から、怪我をしている人を含める二人を連れて脱走し、何度も命を狙われるのを潜り抜け、小舟でアドリア海をさまよっているところを助け出されて無事帰還、情報はしっかり持って帰り、さらわれていた重要人物を助け出す大手柄を立てるというお話です。

いやいや、入院中の身にはぴったりの一大エンターテイメント、大いに楽しませてもらいました。


そして、退院後に買ってしまったのが、その続編です。たくさんあるのです。
中東、アフリカ、ヨーロッパ、東欧、アジアなどなど、ミセス・ポリファックスはその後も次々と、簡単そうな任務で出かけ、いつも手違いで死ぬ目に遭遇します。ところが、直観力と機転でカーステアーズの期待以上の働きをしてしまうのです。
ミセス・ポリファックスはいつも観光地など訪れる余裕はないのですが、おんぼろ車に乗ったり、馬に乗ったり、ロバに乗ったり、歩いたりして、国中を旅することを余儀なくされます。

著者のドロシー・ギルマン(1923-2012)は旅好きだったのか、たくさんの地名が出てくるし、その国の言葉、乗り物、料理、民族衣装、習慣などがふんだんに出てくるのもおもしろいところです。
そして、他の登場人物も、悪者も含めて、みんな魅力的なのです。

『おばちゃまはハネムーン』はタイの話ですが、運輸手段としてロバが出てきたり、北部のタイ人なのに南部の料理が好きと言っているところや、ジャングルの様子など、 些細な間違いはありますが、全体ではとてもよく調べてあると感心しました。


ただ、どっちでもいいことにも見えるけれど、日本語版の表紙はいただけないと思いました。
Amazon USAでオリジナルの表紙を見ると、想像力がかきたてられるような素敵なものでしたが、日本語版では、ミセス・ポリファックスが安っぽい、深みのない人に見えて、想像力の邪魔になってしまいます。
kuskusさんに貸していただいた古い装丁の方がましかなと思いますが、全部新しいものになってしまっていました。

シリーズ最後の、『おばちゃまはシリア・スパイ』が書かれたのは2000年、そろそろ携帯電話が世界を席巻しはじめたころでしたが、物語はすべて、携帯電話のない古き良き時代のものでした。
訳者の柳沢さんは,kuskusさんのお友だちです。




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