2017年6月7日水曜日

アトラス

絣の発祥の地はインドには、精緻な、高い技術の経緯絣(たてよこがすり)パトラがあり、絣とは思えないほど細かい模様を、絣で自在に表現しています。
その絣技術は、西には中央アジア諸国に、東には、ビルマ、タイ、ラオス、カンボジアなどの東南アジア大陸諸国やインドネシア、フィリピンなどの島嶼諸国に、そして遠く、琉球や日本にももたらされました。

インドネシア、カンボジア、日本などの絣には、絵を描くように大きな模様に染めたものと同時に、小さな、近寄って見て、初めて絣とわかる、小さな模様のものもあります。
ところが、中央アジアの、アトラスと呼ばれる絣は、それを仕立てたときに活きるような、大胆に大きな模様でできています。

私が中央アジアの絣の存在を知ったのは、ずっと昔のことでした。雑誌か何かに市場の写真が載っていて、それに、絣らしい、大胆な服を着た女性の姿が写っていたのです。
そのときは、それが絹とは知らず、その絣についてもっと知りたいと思ったものの、ウズベキスタン、カザフスタン、トルキスタンなど中央アジアは遠い存在、アフガニスタンも長い内戦・鎖国時代に入っていて、知ることの糸口さえ、つかむことができませんでした。

二十一世紀になって、日本でも中央アジアの布をときどき目にするようになりました。
そうなると、実際に手に取ってみたいという思いはつのるばかり、五、六年ごしに指をくわえて眺めていた絣、アトラスをとうとう手にしたのは、この冬のことでした。


ウズベキスタンのアトラス、女性用の上着、チャパンです。 
化学染料で染めた、二十世紀初頭のものです。十九世紀のものとなると、草木で染めています。


蚕を育てて絹を取り、地機で、約40センチの幅に織った布を使っています。真ん中に青の模様を挟んで、大きな山形二模様が、一枚の布です。
絣には、経緯(たてよこ)絣、緯糸(よこいと)絣、経糸(たていと)絣がありますが、中央アジアのものは経糸絣です。

ブログ、イスラム紀行より

絣は先染め(糸染め)、糸に糸などをくくりつけて、そこに色が入らないようにして、染めてから織ります。
多色を染めるときは、何度も解いたりくくったりして、染め分けます。
 

チャパンのサイズは、私が着てちょうどいいくらいの大きさ、袖が長くて手を出せないのは、乾燥した気候から肌を守るためですが、装飾のためか、袖をもっと長くしたものもあり、わりと短め(といっても手が出ないくらい)のものもあります。


仕立ては、すべて手縫いですが、一番目立つところにミシンステッチがしてあります。
ミシンが普及し始めたころだったのか、ミシンを使った方がおしゃれだったので、仕立てたものをミシン屋さんに持って行って、襟と裾のあたりだけ、わざわざミシン掛けしてもらったものと思われます。裾周りと同じ刺繍をしている袖口には、ミシンのステッチはありません。
中には薄く綿が入っていますが、とても軽いので真綿のようです。


裏地には、ヨーロッパには市場を伸ばせなかったけれど、中央アジアに市場を伸ばしたという、ロシアの木綿のプリント地が三種類使われています。
全体には大柄なものが、襟から裾周りにかけては斜め縞のものが、


そして、見えない袖口には、花模様の木綿布がつかわれています。

イスラム紀行より

アトラスの模様には、それぞれ、意味もあったようです。


そして、普段着もあれば、結婚式など、特別な時に着るものもあったのでしょう。


こんな服を着て、さっそうと行き交う風景が今も残っているのかどうか、観光旅行をしたことのない私ですが、いつか中央アジアに行ってみたいなと思っています。








4 件のコメント:

karat さんのコメント...

恥かしながら、経緯が「たてよこ」だという事を割と最近、春さんのブログで認識しました。でもどっちがどっちだったか?と自信がなかったのですが、やっと、地球の緯度経度もそうなんだ!と気づき、今後は間違えないと思います。
それにしても、織る前に経糸にちゃんと計画して計算して模様を染めていく(それもどうやらきつく縛るという方法で)、さらに緯糸にも計算して染めていくって…話には聞くけれど、以前大島紬の紹介の番組も見ましたが、気が遠くなる作業ですよね…。めまいがして、私なら途中でやめてしまうというか、取り掛かれないというか、そんな気も起きないというか…。絣ってすごいといつも思います。
なおその写真の上着は帯で締めて着るのですか?暖かいのでしょうね?

hiyoco さんのコメント...

私も経と緯が分からなくなりがち。学生の時、経度と緯度がどっちがどっちか覚えられなくて、字画が少ない方が線(経線)がたくさん、字画が多い方が線(緯線)が少ない、となんとか覚えました。
裏地は綿だけど、表地はシルクなのですね!思ったよりは軽いのでしょうか?どうやって刷毛のような模様を付けるのか不思議です。経糸をずらすのかしら?幅が40cmの布ってことは着物の反物と似たような幅なんですね。
トラがすかさず乗ってくるのが笑える!

さんのコメント...

karatさん
経糸、緯糸は織りものに使われる言葉ですが、「その経緯は」などと、普通にも使われていますよね。
経糸絣は、経糸さえくくっておけば、あとは同じ色の緯糸で頭を使わないで織れるので、一番簡単と思ってしまいますが、そうとも言えません。繰り返しが多い模様だったりすると、むしろ緯糸絣の方が、くくる手間が簡単かもしれません。
写真にあるように、絣は枠に糸を張って、出来上がりを想像しながら、何本もまとめてくくるのですが、経糸絣の場合、織り機に経糸を掛ける(整経)とき、ずれないように調整します。
また、緯糸絣のとき、模様がずれそうになったら、少したるませて調整したりしています。
人間の面白いところは、できるだけ難しいものに挑戦してみたいという気持ちが湧いてくることでしょうか。インドのパトラのような細かい柄の場合、「何もそこまでしなくても」とも思いますが、まだプリントの染色がうまくいかなかった時代、絣で模様を出す方法は画期的だったのでしょう。

この上着は、帯を締めたり、ただ羽織ったり、どちらでも着るんじゃないかと思います。
景色全体が砂っぽい色のところで、みんながカラフルな衣装をまとっていたら、想像しただけで素敵です!

さんのコメント...

hiyocoさん
中央アジアの民族衣装は、表がシルクや手紡ぎ手織りの木綿で、裏がロシア更紗というのが普通です。
大航海時代に、ヨーロッパで一大更紗ブームが起こりました。そのため、ヨーロッパでも、インドやインドネシアのバティクを真似て、ろうけつ染めが行われるようになり、やがて、産業革命でプリント機械が発明され、フランスやイギリスは製品をヨーロッパ域内やアフリカに売ったのですが、出遅れたロシアは、質もよくなかったことから、ヨーロッパ市場には参入できませんでした。ところが、中央アジアでロシアプリントがブームになり、何とかやっていけたという経緯があります。
しっかり織られた薄手のシルクで、これはとっても軽いです。計ってみたら745gでした。

絣の刷毛のような部分は、意図してつくったものではありません。何十本もの糸を一緒に結んで染めると、どうしても奥まで色が入る部分と入らない部分ができますが、それが刷毛のようになって、絣の味にもなっています。

トラはうるさいよね(笑)。押しても動かないし、つまみ出してもすぐ戻ってきました。今日も草むしりしていたら、私の腕の下をくぐったり、お尻に身体をこすりつけたりと寄ってきています。でも、小さい時しつけたので、ベッドにだけは上がりません。
たった今、変な音が聞こえたので足元を見たら、うなぎのために置いてある箱の中で寝ているトラの、大きないびきでした(笑)。